書評・承久の乱
日本における唯一の革命戦争が承久の乱である。
他は、かろうじて、明治維新が並ぶ程度である。
歴史作家の井沢元彦氏はそう述べている。
日本を二つに分けたような大乱は、他にもあった。
関ヶ原の戦いや応仁の乱、壬申の乱などが挙げられる。
ただそれらは、武家同士、皇族同士の高いであり、同じ階層での権力争いだった。
一方、承久の乱は、地域に根付いた在地領主と、法律に基づいて都で上がりを得る朝廷の階級闘争である。
勝利した在地領主の頭目が、上皇3人を流罪にして、革命を成し遂げた。朝廷が持っていた莫大な数の荘園を得ることができ、朝廷を完全な傀儡にすることに成功した。
壇ノ浦の戦いではなく、承久の乱で、以後650年にわたる武家政権は完成したのである。
今の大河ドラマ・鎌倉殿の13人のオープニングは、抜刀しようとする武士と、杓をもった貴族が対峙する絵で終わる。
主人公・北条義時こそが、朝廷と革命戦争を戦った、在地領主の頭目であり、両者の対立を強く示唆したオープニングである。
本郷和人氏の承久の乱はその革命戦争が詳細に描かれている本である。
歴史の本というのは新書であっても読みにくいものが多い。
しかし、一般向けに読みやすい分を書くことを尊重する、本郷氏の柔らかい文がまず魅力である。
鎌倉で武家政権が確立しつつある中で、後鳥羽上皇も軍事力を確保しようとした。有力な御家人を複数、ヘッドハンティングした上に、「西面の武士」という朝廷直属の軍隊を増設した。
本著は、そのような破れた朝廷サイドの動きも詳細に追っている。
敗戦とはなったが、勝算を高めるために懸命に努力した後鳥羽上皇の姿を知ることができた。
また、著者の分析で当時の御家人の動員兵力がどのくらいなのかが推計されている。
幕府軍は計何人で、朝廷軍は何人かなどを細かく計算しており、当時の幕府軍がどのくらい力を持っているかが分かった。
承久の乱は、戦闘が一方的だからか、あまり物語にならない。
しかし、歴史の上では、極めて意義が大きい。
日本の唯一の革命戦争について、詳細に追いたいならばお薦めの一冊である。